大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)4759号 判決 1968年8月15日
原告
土井裕司
被告
江山正司
ほか一名
主文
一、被告らは各自原告に対し、二八〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和四二年三月二九日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二、原告のその余の請求を棄却する。
三、訴訟費用はこれを四分し、その三を原告の負担、その余を被告らの連帯負担とする。
四、この判決一項は、かりに執行することができる。
事実及び理由
第一原告の申立て
被告らは各自原告に対し、一、二四五、〇〇〇円およびこれに対する昭和四二年三月二九日(損害発生後)から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員(遅延損害金)を支払え。
との判決ならびに仮執行の宣言。
第二争いのない事実
一、傷害交通事故発生
とき 昭和四二年三月二八日午後一時三〇分ごろ
ところ 大阪市東成区片江町一丁目六〇番地先交差点
事故車 (1)原動機付自転車(原告車という)
(2)営業用普通貨物自動車(大阪四は九七二〇号、被告車という)
運転者 (1)原告
(2)被告正司
受傷者 原告
態様 北から南進してきた原告車と西から東進してきた被告車が交差点内で接触した。
二、被告らの責任原因
(1) 被告正司(民法七〇九条)
交差点北側より進行してくる車両に対する注意が十分でなかつた過失により、本件事故を発生させた。
(2) 被告会社(自賠法三条)
被告会社は被告車を自己の営業のために所有し、被告正司を運転手として雇用していた。
第三争点
(原告の主張)
一、原告の損害
(1) 受傷部位・程度、後遺症
頭部外傷、頭蓋骨々折により、入院九五日、観察治療三か月を要し、現在軽度の頭痛、悪心の後遺症がある。
(2) 数額 合計 一、二四五、〇〇〇円
(イ) 逸失利益 計 五四五、〇〇〇円
本件事故当時高校三年に進学が決定し、高校三年の教科書を買いに行く途中であり、以後六か月間の治療を受けなお後遺症が残る症状のため、高校三年の教科を受けることができず、一年間休学のやむなきに至つた。
かくては大学への進学が一年間遅延し、そのため原告が昭和四一年四月から翌四二年三月まで大学進学のため家庭教師に教えを受けた勉学が無駄となり、結局家庭教師に支払つた授業料一か月一万円、一年間一二万円が損失となる。
さらに、一年遅れて大学に入学し卒業することになり、そのため就職が一年遅れ、通常大学卒業者が受ける一か月二五、〇〇〇円(年間三〇万円)の給料所得と年間一二五、〇〇〇円(五か月分)の賞与所得の合計四二五、〇〇〇円の所得を得ることができず、同額の損害を受けることとなつた。
(ロ) 慰謝料 七〇〇、〇〇〇円
以上すべての事実をしんしやくすべきである。
二、被告正司の過失
被告正司には、前記過失のほか左記の過失があつた。
(イ) 交差点手前で一時停止せず高速度で進入した。
(ロ) 北から先入した原告車に進路を譲らなかつた。
(ハ) 道路左側に寄らず中央を進行した。
(被告らの主張)
本件事故発生については原告にも左記の過失があつた。
(イ) 本件交差点は各幅員約六メートルの東西、南北の道路が直角に交差する交通整理の行なわれていない場所であるから、いずれの道路を進行する車両の運転者もたがいに徐行あるいは一時停止すべき義務がある。しかるに、原告はこれらの義務を守らず、時速約五〇キロメートルの高速度で進入した。
(ロ) 西から先入した被告車に進路を譲らなかつた。
(ハ) 道路左側に寄らず中央付近を進行し、被告車を発見後もブレーキをかけないまま、自車の風防付近を被告車の左ヘツドライト付近より中央ナンバープレート付近にかけて擦過させながら左に転倒した。
第四証拠 〔略〕
第五争点に対する判断
一、原告の損害
(1) 受傷部位・程度
〔証拠略〕によると、頭部外傷(頭蓋骨々折)の傷害により、昭和四二年三月二八日から同年六月二〇日まで東成病院に入院加療し退院時軽度の頭痛、悪心等が残つていたが、同年一一月ごろまで通学のかたわら通院加療した結果全治したことが認められる。
(2) 数額
(イ) 逸失利益 認められない。
〔証拠略〕によると、昭和四二年七月から登校し高校三年の教科を受講したこと、翌四三年三月に東海大学に推せん入学できたことが認められる。
(ロ) 精神的損害 七〇〇、〇〇〇円
右算定につき特記すべき事実は左のとおり(〔証拠略〕)。
(A) 入院約三か月、通院約五か月(一週一回)
(B) 高校三年という重要な時期に三か月の休学を余儀なくされ、大学入試に少なからぬ苦労をした。
(C) 治療費は被告らが支払つた。
二、原告の過失(過失相殺六〇%)
〔証拠略〕によると、つぎの事実が認められる。
(1) 本件交差点は、幅員約五メートルの南北道路と幅員約四メートルの東西道路が直角に交差する場所で、交通整理は行なわれてなく交差道路に対する見通しはきわめて悪い。
(2) 被告正司は被告車を運転して時速約一五キロメートルで道路中央部を東進中、本件交差点にさしかかつたので軽くブレーキを踏み時速約五キロメートルに減速して交差点に進入したが、左(北)方道路に対する安全確認が十分でなかつたため、交差点中央部に接近したとき左方から進行してきた原告車を至近距離に発見し急ブレーキをかけたが及ばず、自車左前部と原告車右側面が接触した。
(3) 原告は原告車を運転し道路中央部を南進して本件交差点に進入したが、その直前に右(西)方道路から進入した被告車を避けることができず、自車右側面で被告車左前部から中央ナンバープレートを擦過してその場に横転し、さらにその余勢で約六メートル南方に投げ出された。
以上認定の事実に基づき判断すると、本件交差点は徐行すべき場所であるのに、原告は時速二〇キロメートルをはるかに越える高速で漫然進入したもめと推認され(甲三号証の三の記載中、原告が時速約二〇キロメートルで南進していた旨の部分は、たやすく信用しがたい)、この点の過失が本件事故の主因をなしているといわなければならない。原告の右過失と被告正司の左方道路安全確認不十分の過失を比較すると、その割合はほぼ前者の三に対し後者の二と認めるのが相当であるから、被告らが賠償すべき額は前出精神的損害額の四〇%にとどめるべきである。
三、結論
被告らは不真正連帯債務の関係で原告に対し、慰謝料二八〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和四二年三月二九日から支払いずみに至るまで年五分の割合による遅延損害金を支払わなければならない。
よつて、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 谷水央)